成人の日ということでしっとりと・・・

私にとって父は、本当によく分からない存在だった。よくしゃべり、社交的な母とは正反対で、あまり多くを語らない。会社から帰ってくると、黙々と大五郎のコーラ割りを呑み、こ難しい歴史書を読んで寝てしまう。私の成績や友人関係にはほとんど関心を示さず、「好きにしなさい」とばかり言っていた。「少し風変わりだけど、気の良いおじさん」。これが、18歳までの私が父に抱いていた印象だった。そして私は、大学進学を期に実家の福島を離れて、群馬での一人暮らしを始めた。
高校生活のすべてを受験勉強に奉げた反動だろうか。大学入学を境に、私は遊び狂った。髪を金髪にし、毎日のように合コンへと出向き、学校へはほとんど行かなかった。そんな私でも、さすがに故郷は恋しい。自堕落な日常を隠しに隠し、夏休みを利用して初めての里帰りをした。家族はみな、私が真面目に学生生活を送っていると信じて疑わなかった。少し胸は痛んだが、「家を出る前のわたし」を演じることが家族に対しての優しさであると感じていた。
2週間あまりが過ぎ、いよいよ群馬へと戻る朝、テーブルの上にお土産として用意された米や缶詰、インスタント食品に紛れて、乱暴に引きちぎられたメモ用紙が一枚あった。「弥生へ。男を信用しすぎるな。自分をしっかり持て」。
ぶっきらぼうに書かれたその文字は、見慣れた母の字ではない。おそらく、父が初めて私に宛てた手紙。およそ、居間のテーブルには似つかわしくない手紙を読みながら、私は涙を流し、そして笑った。
父親だからこそ気がつく、娘の変化があるのだろうか。皆の前で叱るのではなく、静かに手紙を通して戒めてくれたことがうれしかった。
「ちょっと風変わりな、気の良いお父さん」。いまの私は、父をこう思っている。